3.開港式

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 翔はやがて最前列で倒れていた福住大臣の脇に辿り着いた。大臣は頭や手足から大量に出血していて、顔面は人相も分からないほど血だらけだった。  「大臣、福住大臣、大丈夫ですか?」  福住は答えなかった。完全に意識を失っていた。翔はすぐに大臣の首筋に指を当て、脈を確認した。生きている。ほっとする間もなく、翔は肩のところにフックしてある無線機をつかんで、怒鳴った。手が自分の血で滑った。  「現本どうぞ、福住大臣が負傷し意識不明。頭部より多量に出血。どうぞ」  外れていたイヤホンを耳に押し込み直して返答を待ったが、聞こえるのは雑音だけだった。  「現本、聴取できますか? 繰り返す、福住大臣が負傷、頭部より多量に出血し意識不明です。救助を要請します。どうぞ」  爆心地のターミナルからは熱風とともに、炎が吹き出していた。火の手は、これからカットされるはずだった紅白のテープや真っ赤な絨毯に広がり始めていた。やがて、最前列で倒れている何人かの背広にも燃え移ったが、その人たちは全く身動きをしなかった。福住の隣にいたはずの中務首相が見当たらない。翔はぐったりしている福住大臣の傍で途方に暮れた。
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