4.不可解な誘い

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 石田に導かれるまま、翔は病院内の迷路のような廊下を歩き、エレベーターで最上階に進んだ。エレベーターを降りると、そこは廊下の広さからして別世界の趣があった。かすかに消毒液のにおいがしなければ、リゾートホテルと勘違いするだろう。豪奢な廊下の両脇には、黒い背広を着込んだSPが一人ずつ立っていた。どちらも知らない顔だ。道警本部ですらない、警察庁の人間であることは、その雰囲気からすぐに分かった。  福住大臣は、そのフロアの一番奥の病室にいた。病室のドアの横にも、渋面のSPが一人、立ちすくんでいた。石田が目で合図をすると、SPは小さく頷いた。石田は軽く三回ノックして、スライドドアを横に引いた。病室内部は、翔がこれまで見たこともない造りだった。室内は小学校の教室くらいの広さで、入口付近には、十人ほどでちょっとした会議ができそうなテーブルと椅子のセットがあり、その奥には病院らしからぬ応接セットが控えていた。ベッドの周辺は、高価そうなランの花束で埋め尽くされている。石田は病室の奥に進んだ。  「大臣、ICUの近くで、天羽巡査と会いましたので、ご足労願いました」  頭を包帯でぐるぐる巻きにした福住は、リクライニングさせたベッドにもたれ、パソコンで電子新聞を読んでいた。  「おお」  大臣は、翔の顔を認めると、途端に表情を緩めた。右の頬に貼ってある大きな絆創膏が痛々しい。左手には点滴の管がつながれていた。  「天羽君か。命の恩人だな。さあ、こっちに来てくれ。伝えたいことが山ほどある」  翔は、ランの花の甘ったるい香りに辟易しながら、福住大臣のベッドサイドに進んだ。
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