4.不可解な誘い

6/10
前へ
/271ページ
次へ
 「申し訳ないが、たとえ命の恩人であっても、今はまだ言うことができない。しかし、遠くない将来に、君にも分かる時が必ず来る。今、私が何を言わんとしたのか、この宇宙港がどれほど大切な施設か、なぜ石田が泣いているのか、それら全てをね」 なお怪訝な表情をしていた翔に、福住は言った。  「ところで、君は今の仕事に満足しているかね」  「…」  無言でいた翔に、福住は笑みを漏らした。  「大臣に向かって『不満です』とは言えないよな。これからの私の話は、独り言だと思って聞いてもらいたいのだが、不幸にもテロによる幕開けとなってしまった宇宙港からは、来年早々、国産のスペースプレーン一号機が飛び立つ。名前はもう決まっている。『みらい』だ。その時、日本は世界で八番目のスペースプレーン保有国となる。スケジュールは前にも後にもずらさない。これは国家の最優先プロジェクトで、ガチガチの決定事項だ。今後テロリストに一切手出しはさせない。来年には二号機、三号機が続く。スペースプレーンが就航すれば、やっとわが国もISS(国際宇宙ステーション)への独自の輸送路を持てる。ISSの先には、月面基地や火星コロニーがつながっている。これは理解できるね」  「はい」  「スペースプレーン保有国は近い将来、二十、三十へと増えていくだろう。民間で建造するところもでてくる。火星に行ったモンローやクルゼイロなんかはすぐに手を出すだろう。そこで懸念されるのが、混乱だよ。大勢の国と人々が宇宙に殺到することによる混沌。これを放置すると、戦争だって起きかねない。ISSや月、火星が天空の火薬庫になるのは絶対に避けなければならない。そこで、これから宇宙空間で最も必要となるのは、何だと思う」
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加