4.不可解な誘い

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 翔はしばらく考えてから答えた。  「秩序でしょうか」  「さすが警察官だ。ならば、その秩序を守らせるには、ある程度の強制力が必要になるということも理解できるね」  「それは軍隊ということですか」  「半分正解だな。だが、宇宙には今のところ軍隊ほど強力な強制力はいらない。いくら宇宙が身近になったとは言え、まだ武装船を地球軌道上に打ち上げられるテロリスト集団はないからね。だが、怠ってはならないのが、人による破壊活動への警戒だ。これから宇宙ステーションや惑星コロニーには、いろいろな国の一般市民が殺到する。その中にテロリストの教義に共感した人間や脅しに屈した連中が紛れ込まないとも限らない。スペースプレーンのハイジャックだって想定せねばならない。当然、関係するあらゆる施設で警備を強化する必要がある。だが、月やISSは地球とは違う。君に説明するのは、釈迦に説法かもしれんが、歩いて宇宙空間をパトロールする訳にはいかないから、独自の移動手段が不可欠だ。護身用、鎮圧用の武器だって地上のものとは違ってくる。これから宇宙では、特殊な装備で軽武装した警察以上軍隊未満の専門組織が求められるのだよ。活動場所が場所だけに、構成員は体力だけでなく、それぞれ高度な知識や技術を持つ必要もある。しかも、その組織は、最も難しい国際協力体制の下で運営されなければならない」  「月面基地の守備隊とは別なのですか? 火星コロニーにも武装した自警団が組織されたとテレビで見ましたが…」  「月面守備隊は実質的に設立当初から米軍の出先機関だ。火星の自警組織も似たような性質だ。しかし、私はそれら全てを過渡期の組織と考えている。宇宙への出国ラッシュを控えて、それらを統合して、きちんとした体制に組み込もうというのが、今の国際政治の流れなのだよ。これにはアメリカもしぶしぶだが賛成せざるをえない。驚くかもしれないが、中国すら賛同している」  話し自体は興味深かったが、一方で翔は戸惑った。地方警察の一巡査に、宇宙開発の最先端で起こっている政治的な課題を語ることに、何の意味があるのだろう。福住は事故で頭を打って、混乱しているのだろうか。  戸惑う翔の表情をみて、福住は言った。  「私が何のためにこのような話をしているのかを訝っているようだね。よかろう、話を簡潔にしよう。君は、その宇宙警備の新組織に参加してみる気はないかね」
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