4.不可解な誘い

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 呆然としていた翔を前に、福住は続けた。  「新組織は間もなく、そう二カ月後には国連主導で設立の話がリリースされる。事は急を要しているのだよ。そこには、ISSや月面、火星開発に関っている全ての国が参加する。もちろん、我が日本も優秀な人材を第一陣だけで少なくとも数十人は送り込む。幹部だけでなく、現場の警察官や自衛官もそこに含まれる。もちろん、宇宙の専門家もだ。既に内々に人選は進めているのだよ」  「そこになぜ私が…」  翔は余りに急な話の展開についていけなくなっていた。  「首相すら失った悲惨なテロ事件で、宇宙港事業の中心にある大臣、つまり私の命を救った英雄。それだけで新組織に推薦される資格は充分にあると思うがね」  「しかし、選ばれる人員は、優秀な人材ばかりではないのですか。一介の警察官の私では…」  翔の言葉を、福住は軽やかな笑いで遮った。  「謙遜してはいけないよ、天羽君。悪いが君の経歴を少し調べさせてもらった。君は一般的な警察官ではないね。中学、高校と成績優秀で、そう中学生の時には人命救助で表彰もされている。そして何より大学で宇宙工学を専攻していた経歴が光っている。成績も素晴らしい。なぜ、宇宙関係の進路を取らなかったのかね」  翔は背筋に寒いものが走るのを抑えられなかった。普段は、容疑者や関係先の素性を捜査する警察内部にいるので、その怖さに鈍感になっていたが、いざ自分の過去が、自分の全く関知しないところで詳しく調査されたのに接すると、驚きよりも不気味さが先に立った。子供時分の人命救助の話まで持ち出したとなると、翔の過去は隅から隅まで調べ尽くされている。福住が言うような「少し調べた」程度ではないのは明らかだ。カヌーの大学生を救ったことで、一カ月ほど後に警察に表彰された。地元の新聞にも、大きな記事で取り上げられた。だが、それだけのことだ。それから十年余りが経っている。一国の大臣がなぜそんな昔の、些細な善行を知ることができたのか。翔の頭の中は、混乱した。
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