4.不可解な誘い

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 「それは…」  翔が返答に窮していると、福住は小さくため息をつき、話を繋いだ。  「天羽君、突然のことで面食らっているのは分かる。経歴をあれこれ調べられて不快な思いをしたかもしれない。だが、私のことを全面的に信頼してくれないかね。政治家には嘘や腹芸がつきものだが、こと君に関して、それは全くないと誓うよ。純粋に命を救ってくれた勇気ある警察官に、恩を返したいだけなのだ。今はまだ言えないこともあるが、これまで話した内容に嘘は一切ない。君が恩返しに値しない人間なら、私だってこんな話は持ち出さないよ。君は大学で宇宙ステーションや月面、火星基地の環境制御について研究していたね。しかも、指導教官の評価は素晴らしいものだった。彼、そう山際教授は『アメリカの一流企業に就職を斡旋したのに、それを蹴り、なぜ警察官という職業を選んだのか。会社が嫌なら大学に残ったっていい。そうすれば、私の後を任せられたかもしれないのに』とこぼしていたよ」  「山際先生と話をされたのですか」  翔はますます困惑した。  「ああ、電話で短くだがね。山際教授とはこの宇宙港事業を進める過程で、いくつもの貴重な助言をもらっている。彼の知識は、この事業の推進に欠かせないものだ。その教授が、君を優秀な人材だと言い切った。警察官として埋もれさせてはおけないだろう」  翔のわだかまりはまだ完全に解けていなかったが、恩師の話を持ち出されて、少しだけ気は緩んだ。  「宇宙関係の道に進まなかったのは、最近の宇宙開発に、懐疑的な考え方を持ったからです」  福住は身を乗り出し、質問した。 「ほう、どのような…」
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