1.北海道宇宙港

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 ただ、今や宇宙港建設は、日本だけでなく、世界中でブームになっている。各国元首はその理由に、「地球は増えすぎた人類の面倒を見切れない。新たな生活の場として宇宙開発を早急に進める必要がある」と判で押したように強調した。確かに、今の地球は危機的状況だ。世界各地で頻発している気象災害は、地球が破滅に向かっていることを端的に物語っている。一世紀前までは温帯と冷帯の境目に位置していた北海道のこの地域でも、夏には真夏日が一カ月近く続くようになった。寒冷地作物のジャガイモや砂糖原料のビートを生産していた農業構造もわずか半世紀の間に劇的に変わった。今の主力作物は米と果樹だ。夏だけでない。冬も様変わりした。氷点下二〇度、三〇度が当たり前だった半世紀前は、屋外に水をまいただけでスケートリンクができたのに、今は厳寒期でも氷点下にならない日さえある。近くにいくつかあったスキー場も二十年ほど前には全て廃業を余儀なくされた。だが、この辺りはまだマシだった。東北以南は、四月から十月までの平均気温が二五度に達しようとしていた。東京では真夏日が三カ月以上続き、そのうち一カ月は三五度以上の猛暑日という年が何年も続いている。地表が猛烈に暑くなっているので、集中豪雨や竜巻の被害も年々増え、その被害の程度も悪化していた。  世界に目を向けると、アジアやアフリカの低緯度地域では、猛烈な勢いで砂漠化が進行していた。両極の大量の氷が融けたため、海水面が数十センチ上昇し、海抜の低い平野部が海の底に沈んだ。わずか数十年の間に、世界中で膨大な面積の居住地と農地が失われた。世界の胃袋を支えていた南北アメリカやアジアの穀倉地帯は、極端な少雨かその逆の豪雨に度々見舞われ、食糧生産は極めて不安定だ。貧しい国や地域では、餓死者が後を絶たず、食糧、経済格差の南北問題は深刻になる一方だった。火星コロニーが農業生産に不可欠なリンの巨大な鉱脈を発見し、地球への大量輸送も始まっていたのに、肝心の地球の気象が狂い、農地自体が役に立たなくなりつつあるのでは、起死回生の特効薬になりえなかった。
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