1.北海道宇宙港

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 悪い話は数限りなかった。そんな状況下で、宇宙に希望を見出したい気持ちは分かる。地球を捨てて、他の星に移り住む準備を進めることも必要な選択肢かもしれない。日本をはじめ、世界各国がスペースプレーン発着場の建設に血眼になっているのは、そうした事情が背景にあるのだろう。ただ、それにしても急ぎすぎる。いくら地球がダメになりつつあると言っても、タイムリミットは十年や二十年でやって来ない。宇宙に逃げ出す算段をするよりは、目の前に山積している緊急課題を解決する方が先ではないのか。特に、食糧やエネルギーの自給率が低い日本は、解決すべき眼前の宿題がたくさんあるのだ。それを差し置き、何兆円もの事業費を集中投下して、この巨大施設を二年で完成させる理由は何なのか。ここ半世紀にわたる環境対策の徹底で、地球温暖化は少しだけだが減速しつつある。あと半世紀もすれば、好転する可能性もささやかれてきた。日本だけを見ると、北海道という国土の二二%を占める広大な大地が農耕に最適の気候になったことで、食糧自給率が少しだけ向上しきた。希望の持てる話がない訳ではない。宇宙に逃げ出すことに血眼になるには、少し早すぎる。  しかし―。翔は思い直した。それは一介の警察官の預かり知るところではない。加えて、今はあれこれ考えている時ではない。翔は、何度となく確認させられた自分の配置場所を改めて反芻した。式典開始時の立ち位置は、中央入口から向かって左側の来賓席の後ろ、警備対象は宇宙開発担当特命大臣、福住光太郎(ふくずみ・こうたろう)だ。
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