4.不可解な誘い

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4.不可解な誘い

 死者二十三人、負傷者百十七人をだした宇宙港への爆弾テロは、その後の調べで、ターミナルの構造材そのものに爆発物が仕組まれていたことが分かった。ガラス張りの建物前壁を支える格子状の鉄筋の中に、センサーでは探知不能のプラスチック爆弾が少なくとも数十㌔は含まれていたと、道警の科学捜査研究所は分析した。爆発物はターミナル建築時から、そこにあり、式典開始時に何らかの方法で爆破されたのだ。起爆方法は未だ不明。犯行声明はなかった。爆発物の使用パターンは過去のテロ事件と一線を画してはいたが、公安はNASAやESAの施設を狙ったのと同じ国際的なテロ組織の仕業とにらんでいるようだった。警察組織の末端にいる翔の耳に入ってくるのは、その程度のことしかなかった。  幸運にも翔は切り傷程度の軽傷で済んだ。しかし、同僚の藤川は頭を強く打った上、左前腕と鎖骨を骨折し、顔や腕などにもひどい火傷を負って入院した。翔は事件の三日後、帯広市内の病院に出向き、藤川を見舞った。藤川は顔の半分ほどを包帯でぐるぐる巻きにされ、ICU(集中治療室)のベッドに横たわっていた。腕には点滴の針が刺さっていた。  「今、薬で眠っています」  疲れた表情をした中年の女性看護士は、翔にそっけなく伝えた。救命救急センターを抱えるこの病院には、テロ事件の負傷者が少なくとも五十人以上は運び込まれた。しかも、その大半がVIPだ。事故から三日が経過したにもかかわらず、病院のロビーやICU付近は、未だ混乱の跡をとどめ、不眠不休で対応してきた医師や看護士は一様に疲れ切った表情をしていた。 藤川は軽いいびきをかいて熟睡していた。深い眠りを覚ますのは忍びなく、そのままICUを辞そうとした翔を、一人の男が呼び止めた。
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