2.宇宙開発担当特命大臣

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2.宇宙開発担当特命大臣

 その音が目覚まし時計のアラームだと気付いたのは、いつもの悪夢がクライマックスに差し掛かっていた頃だった。重く垂れ込めた灰色の空、生命の匂いが全くしない荒涼とした大地、そこに福住光太郎は、たった一人で立ちすくんでいた。声を限りに誰かを呼んでも返事はない。途方もない孤独感に苛まれながら当てもなく枯草の道をさまよっていると、遥か地平線の方角にどす黒い積乱雲が沸き起こった。雲は休む間もなくどんどん成長し、光太郎の方に迫ってきた。光太郎はその積乱雲に邪悪なイメージを感じ取り、雲と反対の方角に向って全力で走り出す。しかし、どんなに逃げても、その邪悪な雲からは逃れられない。背後に迫り来る重圧感に耐え切れず、思わず振り返ると…。  いつもはそこで目が覚める。しかし、この日は、走って逃げている最中にアラーム音が救ってくれた。じっとりとした寝汗をかき、息が多少荒かった。光太郎は、しばらくの間、ベッドで上体を起こし、じっと頭を抱えていた。  〈この夢は一体何なんだ〉  宇宙港の開港を間近に控え、ここ数カ月というもの、光太郎の業務は殺人的な多忙さだった。国会、閣議、航空宇宙関連企業との会合、海外宇宙機関との折衝、地方自治体からの陳情への対応、一日が三十時間あっても足りないほどだった。だが、毎日のようにうなされる悪夢の原因は、この激務による消耗ではない。理由は光太郎にもはっきりと分かっていた。  〈この忌まわしい夢から解放されることがあるのだろうか〉  光太郎は深くため息をついて、ベッドからでた。
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