1・龍王と翡翠

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ここは私が統べる龍族が住む国。 青龍、黒龍、白龍、赤龍、そしてそれらの頂点に龍王。 私は龍王貴族の直系。 産まれながらにして龍王になるべき地位にいた存在だった。 しかしそれは、自分自身が望んだ物ではなかった。 前王が病気になり私が後を継いだ。 ただそれだけの事だった。 力の強さがものをいう龍の世界。 私は疎まれた、ただの龍王という名の人形だった。 周りには前王の側近たちが取り巻く。 だがその者たちも思惑の中にいた。 あの頃の私は、力も意志もなにもない。 ただ親の力だけで生きながらえていた。 ・・・お前なんか、前王がいなければただ虫けら同然だ・・・ ・・・そうだ、お飾りだけの龍王・・・ そう囁かれる日々。 父や父の側近は他の龍に危害を加えられようとも、助ける事はなかった。 命に別状がなければ、それでいい。 その程度。 反対に私が抵抗出来ない程弱い方が好都合のようだ。 私は死なない程度に生かされていた。 そして前王も思惑の中にいた。 自分の長い間の立ち位置が覆るのが嫌だった。 たくさんの龍の上にたち、見下す地位。 この場所を手放すのが嫌だったのだ。 だから、自分の子どもに地位を譲った。 現王の父という、上の立場のまま君臨する為に。 そう、自分の私利私欲の為だけに私は利用された。 父と子の間に愛はない。 利用価値があるだけの存在。 愛情という言葉はそこには無用なもの。
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