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ゆっくりと外の変わり行く景色を見ていた私。
その雪の中に何か動く物に目が止まる。
それは人だった。
雪の降る中、箒で雪で湿った枯れ葉を掃く姿。
小さい少女は、吹きすさぶ木枯らしの中にいた。
身体には薄い服一枚。
寒さを凌ぐものは何も身につけてはいなかった。
時折、強風に煽られ身体が大きく揺らぐ。
なぜあんな所に?
何をしているんだ?
寒くはないのか?
いつもは人間に興味が湧く事もない。
しかしその時は何故か、気になって仕方がなかった。
私は、そのまま外に飛び出した。
外は予想した以上に凍えるように寒かった。
私はその少女に近づいた。
ザクザクと歩くたびに聞きなれない音が響く。
少女はその音に気が付き、引きつった表情で私を見ていた。
寒さと恐怖で動けないようだった。
「怖がらせてごめんね。」
少女に始めてかけた言葉は、自分で驚くぐらい優しい声色をしていた。
そしてなぜか、その少女に謝っている事に気付く。
私は何故こんなに、この少女に優しくしているんだろう?
自分の中に分からない感情が流れる。
感情自体ない筈の私に何か変化が起こっていた。
だがこの感覚、嫌ではない。
それよりも、むしろ心地よいものだった。
身体の中から溢れる温かい何か。
これは一体なんだ?
私は無意識に震える少女を自分の大きな温かい服の中に包み込んだ。
途端に匂うこの少女自体の優しい香り。
氷に触れているかのように、冷たく固く丸くした身体。
私はその匂いと少女に触れたい衝動に駆られ、思わず力が入る。
今まで自分から誰かを抱きしめた事などなかった。
ましてや自分の腕の中に入り込ませるなど、ありえない事だった。
だがこの少女はすっと何の隔たりもなく、私の中に入り込んできた。
素直のまま、素顔のままに。
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