1・龍王と翡翠

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「これで文句はないだろ。 ここが綺麗に片付けばいいんだろ?」 私は驚いた瞳で見つめる少女に問いかける。 ・・・この人は私を助けてくれたんだ 怖い顔してるけど、ほんとは優しい人なんだ・・・ ゆっくりと建物の方へ移動する2人。 少し後ろを歩く彼女。 「ありがとうございます。」 礼の言葉に振り向く。 そこには感謝と共にくれた満身の笑顔があった。 その笑顔を初めて見た私。 自分自身の身体の、急激な熱の上昇に戸惑った。 激しい鼓動が耳にうるさく響く。 その笑顔は今まで生きてきた中で、一番の輝きに見えた。 身体の全てから力が溢れ出す感覚。 生まれて初めて胸が締め付けられるような痛みだった。 感謝の言葉を聞きながら、私は一度離した右手で抱きよせた。 その少女の名はスー。 本当の名前はあるのだが、それは決して明かされる事はない。 命の名前、本当の言の葉で付けられた名前。 それを教える事はその人の命を捧げる事に繋がるのだ。 命の名前で命令されれば、その者を意のままにする事が出来るのだ。 それだけ名前はとても大事な物だった。
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