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静かな山村、仁淀川町
目的の民宿に辿り着いたのは、それから更に40分ほど走った頃だった。
道路は相変わらず綺麗で、「仁淀川町」と書かれた看板を見て右に曲がると、道路と街を跨ぐ車一台しか通れないような細い橋を渡る。対向車が来たらすれ違いは絶対に不可能なやつだ。その橋を渡ると、そこは完全な集落でこぢんまりとした村だった。
山肌に沿うように僅かに切り開かれた場所に建つ古めかしい民家。時々通り過ぎる人は腰の曲がったお爺ちゃんお婆ちゃんばかり。若い人の姿は全然なかった。
ギリギリすれ違えるくらいの細い道を通ながら民宿を目指す。
「あ。あれかな」
川縁に切り立っているかのような民宿。
駐車場に車を停めて降りてみると、暑い日差しではあるのに、市内とは全然体感温度が違う。
コンクリート製の建物が少なくて、川と緑に囲まれたこの場所は本当に静かで涼しく感じる。
胸いっぱいに自然のにおいを吸い込んで、吐く。うん、何か幸せ。
民宿の入り口を入ると、受付にいた女将さんがにこやかに出迎えてくれた。
「あの、予約した藤岡と申しますけれど……」
「まぁまぁ、暑い中こん山ん中までよう来てくれました」
「お世話になります」
「ここまで来るんは大変やったやろう? お部屋まで案内しますきに、ゆっくりして行って下さいね」
とても愛想のよい女将さんは、こちらを気遣いながら部屋へ案内してくれた。
窓からは真下に仁淀川が流れ、白い川原が広がっている。
当然だけど、東京にいた時のような雑音は全然なくて、川の流れる音と時折鳴く鳥の鳴き声だけが聞こえて来た。
長閑とは、まさにこの事を言うのだ。
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