初めての地、知り得ないはずの場所

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初めての地、知り得ないはずの場所

「ここだわ」  神社の入り口の石段を見上げる。  綺麗な白い石造りの鳥居に、山の上に続いている長い階段が見上げるほどの高さまで伸びていた。 「もうすぐ陽も暮れるし、参拝だけさせてもらおうかな」  私は長い石造りの階段を登る。でも、誰も登って来る人もいなければ降りて来る人もいない。  セミの鳴き声と蒸し暑さが踏みしめる石段から立ち昇って、体中に巻き付いてくるような感じがして重たく感じる。  一段、また一段と階段を登る度になぜだかまた急に懐かしいような、そんな不思議な感覚を覚え始めた。  さっきお婆ちゃんたちを見て感じた時の懐かしさよりも、もっとずっと色濃い、胸に迫る懐かしさだった。 「……何だろう、この感じ」  私はふと足を止めて、階段を登った事で多少息の上がる胸元を抑えた。  私は生まれも育ちも東京で、田舎と呼べる田舎はない。ちなみに言えば両親もそうだ。だから懐かしいなんて感覚が沸くはずがないのに、なんでこんなに胸が締め付けられるような懐かしさを感じるのだろう。  呼吸を整えながら何となく後ろを振り返ってみる。  先ほどまでいた神社の鳥居が下の方に見えて、視界が開けて村全体が良く見渡せた。
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