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参道は右でも左でもどちらでもいいから端を歩くこと。真ん中は神様が通る道だから開けておかなきゃいけない。横切る時は一礼してから通ったり、本殿に向き直って一礼してからじゃないと失礼だもの。
コトコトと石畳を踏んで本殿まで歩き、鈴を鳴らしてからお賽銭箱に15円のお賽銭を入れる。15円にも諸説あるけれど、良いご縁に恵まれますように、と言う意味が込められているらしいので、「いいご縁。ほんとに何かあればいいな」と、期待を込めてみた。
二礼二拍手をして心を込めて祈る。この時に自分の名前と住所を先に神様に伝えると良いって話だったっけ。
あんまり自分の事ばっかりお願いすると返って良くないって聞いたことがあるので、今日一日無事に過ごせたのは、ご先祖様のおかげです。とお祈りをしてみた。
そして深く最後の一礼を済ませ、宿に戻ろうと背後を振り返った時、参道の先に一匹の黒猫を見つけた。
「猫……?」
黒猫は階段に続く参道の先にちょこんと座り、じっとこちらを見つめていた。
そしてそのお尻の下でゆるゆると振る尻尾が一本……二本?
「え? 二本?」
私は思わず目を擦り、もう一度その猫を見つめると尻尾は間違いなく一本だった。
あれ? 何だろう。何で二本なんて……。そんな事あるはずないのに。疲れているのかな……長旅だったし。
私が一人困惑しながら首をかしげていると、いつの間にか傍に来ていた黒猫は私の横を通り過ぎて、神社の舞台の方へと飛び乗った。
その猫の後ろ姿を追って私が視線を投げかけると、猫は背を向けたまま顔だけをこちらに向けてじっと見つめて来る。
それはまるで、「おいで」と誘われているかのような、そんな感じだった。
金銀妖瞳の怪しげな雰囲気を持った猫の姿を見ていると、また先ほど感じた変な懐かしさを覚える。
「あ……れ?」
頭がぼーっとするのは、この暑さのせい? 熱中症か熱射病にでもなったのだろうか? 何だかクラクラする……。
思わず目を閉じると、今度は先ほどとは別の映像が一瞬見えた。
古めかしい納屋、片隅にうずくまる黒くて丸い何か。あとは、薄ら笑いを浮かべるお侍さんの顔と……赤……。満点の星空……?
それらが走馬燈のように見えて、私はまたすぐに目を開く。
「今のは何……? 何であんなのが見えたの……?」
眉間に皺を寄せ、動揺する私は自然とまた猫の方へ視線を向けた。
すると猫は舞台の上に真っ直ぐにこちらを向いて座り、私が見た事に反応してお辞儀をするみたいに頭を下げたように見えた。
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