初めての地、知り得ないはずの場所

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 私はそんな猫に近づこうと足を踏み出すと、猫はさっと動いて私と距離を取る。でも、逃げ出すのではなく視線だけはこちらに向けたままだ。  物凄く警戒をしている猫が大体取る行動そのものではあるのに、何かこの猫との縁を感じて仕方がない。  でも……きっとあの猫には近づけない。  そう思った私は猫に近づくことは諦めて、もうだいぶ暗くなった神社に背を向けて宿への道を戻ろうと足を踏み出した。  階段の上に立ってもう一度何気なく振り返ると、舞台にいたはずの黒猫が一定の距離を保ったまま私を追いかけて来ているのが見える。  近寄らせてはくれないのに、私の後を追いかけて来るなんて……。  私がくるりと振り返ると、猫はぴたっと足を止めてしまう。私もその場にしゃがみこんで猫に話しかけた。 「猫くん。もし誰か貰い手を探しているんだとしたら、私はダメよ。連れて帰れないし飼う事もできないもの。誰かに飼われているんだったら、君も早くお家に帰った方がいいわ」  私はそう言うと、今度こそ猫に背を向けて階段を降りた。
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