悲しき舞子、狸奴

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 ――シャン……。 「鈴……?」  夢の中で聞いた鈴の音にハッとなり、きょろきょろと周りを見回す。すると部屋の入り口の壁に設置されてる非常用に用意されていた懐中電灯に気付き、それを手に取って浴衣姿のまま部屋を抜けて外へ出た。  外はやはり、街灯もなく真っ暗で人の気配はまるでない。  空には都会ではまず見られない綺麗な星々が広がっていて、天然のプラネタリウムのよう。その反面、そびえたつ山々の尾根は空の闇をも覆う巨大な波の陰のようで、ゾクッとした怖さを感じた。  それでも部屋の中で聞いた音より大きく聞こえる鈴の音に、そこへ行かなければならないと思った私はギュッと懐中電灯を握り締め、恐々と真っ暗や夜の村へと足を踏み出した。
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