悲しき舞子、狸奴

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 昼間通ったはずの道なのに、全然違うように見えるのはどうしてだろうか。  点々とある街灯も切れかけて、チカチカしていたり光が弱かったり……。変な人が出てきても絶対おかしくない。  それでも私は鈴の音が聞こえて来る方へ、音だけを頼りに懐中電灯で足元を照らしながら歩いて行った。 「……ここからだ」  私が音に近づく度に、大きな音になる。  音を辿って来た場所は、昼間来た池川神社の石段の下だった。  石段の上は真っ暗で先が見えない。まるでここを登ったら二度と戻って来られないような、そんな雰囲気が拭えなかった。  持っていたライトで照らしてみても、やっぱり上までは見ることが出来ない。  鈴の音は確かにこの上から聞こえる。不気味で怖くて普通なら行こうなんて思わないんだけど……。  私はしばらくその場に立ち止まり、登るかどうかを逡巡していた。けれど、意を決して階段に足をかける。 「何となくだけど、今行かなきゃいけない気がする」    ゆっくりと歩を進めて階段を登ると、音はさらに近づく。そして息を切らしながら頂上まで登り、顔を上げると私は思わず目を見張った。  月と星の淡い光が地上に降り注ぐ中、昼間見た社の舞台の上にすらりとした長身の青年が、神楽鈴と扇子を手に息を呑むほど華麗な舞いを踊っていたのだ。
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