悲しき舞子、狸奴2

2/4
前へ
/209ページ
次へ
「突然一人にして……、ずっと一人にして、本当に、ごめんなさい……」  泣きたくなんて無かったのに、私はこみ上げる全ての物を曝け出す様にただ謝りながら、その場に泣き崩れた。  狸奴は私のその様子を見て少し驚いたような顔をしたけれど、何かに勘づいたような顔を浮かべその場から動く事はないまま静かに座して切なそうに目を細めながら、こちらを見つめていた。  やがて目を閉じてゆるゆると首を横に振り、僅かに視線を下げたまま言葉を続けた。 「……あの日。いつものようにあなたの帰りをずっとお待ちしておりました。あなたを一番に出迎えることが出来るあの納屋の隅で。そして、あなたがいなくなってしまったと分かっても……この命が消えるその時までずっと、同じ場所でお待ちしておりました。そうすればあなたが帰ってきて下さるような気がしていたのです。おヨネは、あの後酷く憔悴して寝たきりになってしまい、ほどなく彼女もまた私を置いて先立ったのです。ですが、私にはあなたに誓った約束があったから、今なおここにいるのです」 「……っ」  とても寂しそうに耳を垂れた狸奴を見て、私は彼に近づこうと足を踏み出した。でも彼はピクッと耳を動かし、すっと視線を上げて私の動きを制するように手を向けて来た。 「どうかそれ以上近寄らないで下さい。今のあなたでは、私の妖力に中てられて体調に悪影響を及ぼしかねません」 「え……」 「黒川の末裔であるあなたとこうしてここでお会いできた。それだけで私はこの上なく幸せです」 「狸奴……」
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加