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そう言いながらも伏せ目がちの目はとても哀愁が漂っていた。
誰が見ても寂しそうなのに、近付く事さえ出来ないなんてそんなの寂しすぎる。
狸奴はそんな私の心情をまるで見透かしたかのように言葉を続けた。
「私はこの池川神社の猫神として御神体となり、誰にも知られず、誰にも関わらず、ここに暮らす人々を見守っているのです」
「そんなの……これから先も続けていくつもり? あなた一人で寂しくはないの?」
「それが私と主との約束。主が愛したこの地を私が主に代わって守る事が私の使命」
だから寂しくはない。
そう言葉を付け加えるわりに、彼の表情はやっぱりどこか寂しそうだった。
彼は自分の意志で御神体となったのだと思う。だから彼の言葉が本当なら、彼に触れる事は出来ない。神様や仏様は安易に触れていいものじゃないことは分かっている。でも、私はどうしても彼を放っておくことが出来なかった。
このままずっとここに……自分の意志だとしてもたった一人で居続けるなんて……。
私はぎゅっと手を握り締めて、顔を俯けた。
「……そんなの、悲しいし寂しいよ」
その言葉に、狸奴は驚いたような顔を浮かべた。
私は顔を上げて真っすぐに彼を見つめると、狸奴はどこか戸惑うようにわずかに視線を逸らす。
「懐かしい主の匂いを纏うあなたが、時々私に会いに来て下さればそれで構いません。私はそれで悲しさも寂しさも報われます」
狸奴はそこで初めて、ふわりとほほ笑んだ。
すっと細められた目は本当に猫のようで、それにとても神々しくて、ギュッと胸が締め付けられた。
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