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その時ザァッと強い風が吹き、神社を取り囲む森の木々がざわめいた。
思わず目を閉じて、乱れた髪と浴衣の裾を抑える。そして次に目を開けて舞台を見ると、そこに彼の姿は無かった。
「え……? 狸奴!?」
いなくなった狸奴を、私は慌てて探し回った。
彼が先ほどまでいたはずの場所まで駆け寄ると、確かにそこにいた彼のぬくもりだけが残っている。
私は誰もいなくなった神社を見つめたまま、やるせない思いが胸に込み上げた。
400年前にご主人に先立たれた狸奴。きっとずっと亡くなっても大好きな主を待ち続けていたのに違いない。でもご主人は帰って来なくて、おヨネさんと言う人も死んでしまって……。
それなのに主を信じて、主の願いを引き継いでたった一人でこの場所に留まり続ける事を選ぶだなんて……。
人も動物も関係ない。一人じゃ生きていけないのに。
その時私は、先ほど見た夢の内容と初めてこの神社に続く階段で見た見覚えのない光景を思い出した。そして狸奴が言っていた「黒川の末裔」と言う言葉。それがこの瞬間全部が一気に繋がる。
「私に、狸奴の元主の血が流れているって言ってた。それなら、私が見たあの古い家の映像も、夢も全部納得が行く」
その頃の主の想いが私にあるとは考え難かったけれど、でも、彼を一人にしていいなんて思わない。もう離れちゃいけないような、そんな気持ちの方が大きかった。
「……もし私が狸奴の主になれたら問題はないのかな」
暗い闇に仄かに照る月明かりの舞台を見つめ、私はそう呟いた。
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