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「おや?」
そんな幸之助に気が付いたのが真吉だった。真吉はそこらの石と見分けにくい姿に成り果てた幸之助を見つけて足を止め、こちらを覗き込んでくる。
「あぁ、何て事じゃ。可哀想に……」
そう言うと、真吉は汚れる事も気に留めず手のひらに収まるほど小さな幸之助の体をそぅっと抱き上げ、大切に懐へと入れ込んだ。
「しょう冷いねゃ。ちっくと待ちよれよ。すぐにぬくうちゃおき、頑張っとうせ」
真吉は懐へ入れた幸之助を片手で支え、穴の開いた番傘を手に足早に家路へと急ぐ。
「おう、もんて来たぜよ!」
そう声を上げて家に帰り着くなり急いで草履を脱ぎ捨てて土間に上がり、懐から幸之助を出すと持っていた手拭いでごしごしと体の汚れを拭い落とし始めた。
「お帰り……って、ごっつい濡れちゅうやんか!? どいたがです?」
「おお。道端に子猫がおったがよ。早う温めんと死んでしまうかもしれん。湯じゃ、湯を沸かしてくれ!」
「は、はい!」
出迎えに出て来たのは、真吉のところに嫁いで来たばかりのおヨネだった。
真吉に急かされて急ぎ風呂に薪をくべ、湯を沸かしに走った。
「頑張っとうせ……。じきにぬくい湯に入れちゃおきねゃ」
綺麗に泥を拭いながら、どこか焦りの色を見せつつも落ち着いた声で励まし続ける真吉は、新しい手拭いで体中をぐるぐるに巻き付け再び懐へ幸之助を仕舞い込む。そして少しでも温かくなるようにぎゅっと抱きしめ、自らの体温を移しつつ手拭いの上から更に擦り続ける。
自分の為に頑張ってくれている真吉の姿をボーっとする頭のまま薄く目を開けて見上げると、彼はとても忙しない様子でおヨネに指示を出していた。
「あぁ、あと飯じゃ! 猫が食える飯をこしらえねゃ……。米と節をやりこう煮ちゃったら喰えんろうか?」
「こんな子猫が、米や節が食えますやろうか?」
「無いよりマシじゃ! 喰えんかったら喰えるように潰しちゃったらええ。おヨネ、早う作ってくれ!」
「は、はい!」
焦る真吉に急かされて、おヨネは言われるがまま幸之助の為の食事を作りに取り掛かった。
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