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今行って狸奴がいるかどうか分からないけど、行かなくちゃ。
ここを守る気持ちまでないがしろにするつもりはないけれど、寂しくないなんて絶対嘘。寂しくなかったらあんな顔しないもの。それに、ご主人の事が大好きだから、ご主人との約束を守ることで繋がっているって思っているならなおの事、誰かと一緒にいたいってどこかで思ってておかしくない。私だってきっと狸奴と同じ立場だったらそう思うもの。何より……。
「ご主人様は、きっとそんな風に狸奴をここに縛り付けたいだなんて思ってないはずだわ」
誰に言うでもなく、私は一人そう呟いた。
◆◇◆◇◆
暑い日差しの中、神社に辿り着いた私は狸奴がいるかどうか探し回った。
昨日の舞台の周り、軒下、茂みの中、神社の裏手……。
だけどどこを探しても狸奴の姿は見つからなかった。
額から流れる汗を拭い、私は長い溜息を一つ吐く。
「狸奴……いないのかしら」
そう言えば昨日言っていたっけ。人間には狸奴の姿を見る事が出来ないって。でも、私は猫の時の狸奴にも、人の形をした時の狸奴にも会ってるから、見ることが出来ないってことはないはず。
そう思って彼がいそうな場所を探し回ったけどじりじりと照り付ける太陽の日差しがきつい。吹き出る汗でせっかく塗ってきた日焼け止めも全部流れちゃったんじゃないかって言うくらい。
そんなに長い時間いるわけじゃないのに、服は汗でびっしょりになっていた。
「ダメだ。ちょっと休憩しよ」
私は日陰になっている場所まで移動して木にもたれ掛かると、カバンの中から持ってきたペットボトルを取り出し、お茶を一口口に含み周りを見回した。
地面が熱すぎて、参道からは陽炎が見える。
他の神社みたいに玉砂利が敷いてあるわけじゃないから、剥き出しの地面な分地熱の温度は他より低いのかもしれない。
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