静かな山村、仁淀川町

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「ワラビかよ。こじゃんち採れたかね?」 「採れたは採れたけんど、大した量やないで。それより今日は立派なフキが採れたき、煮つけにしようかと思うちょった」 「ほうかよ。まぁ時期やないき、しょうないわ。あぁ、そうや。それやったらこれも食事に入れてや。そんなに食べやせんのにごっつう作り過ぎてしもうて、置いちょったらいかんなってしまうき」 「いやぁ、かまんがかえ? 嬉しいちや。ありがとう。ほいたらうちも、今朝庭で採れた芋、持っていんでもらおか」    和やかなやり取りを、私は呆然と見入っていた。  何でもお金さえ払えば手に入る都会とは違って、何でも作れるものは作るお婆ちゃんたちの姿に、私はただただ凄いと感じる。  無いなら無いなりに、知恵を絞ったり助け合ったり。ここではそれが当たり前なんだ。  人と人との繋がりがお互いを助け合っているのが分かるし、お互いを信用し合っている。人を疑うばかりで信用できないギスギスした世の中が日常的になっている中、今目の前で繰り広げられている光景は一昔前には普通の事だったし、それが出来て当たり前だったんだろう。  本来の人間関係って、こう言う事を言うのかもしれない……。  私は人付き合いが嫌いなわけじゃないし、どちらかと言えば積極的に話す方だけれど、どれも上辺ばかりのような気がしてならなかった。 「……いつから、人との距離が離れてくようになっちゃったんだろう」  目の前の光景を見ていたら、何だかすごく……懐かしいような気持ちになる。心があったかくなると言うか……。胸がいっぱいになって泣きたくなってくる。  なぜかと言われると説明できないけど、そんな気持ちに包まれた。
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