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 後に芸人となる人間らしいエピソード――と、それは言えるのかもしれない。しかし、そのことも卑屈なコンプレックスのあらわれに他ならなかった。  高校時代のことを父さんはこう語っている。 『だって、いくら勉強したって駄目なのはわかってたからね。兄貴たちどころか、高校の中でも下から数えた方が早いくらいの成績だった。なにをやっても駄目で、全部中途半端なままで投げだしちゃってたよ。  まわりの連中は女にモテたくてギターなんかやりはじめるわけよ。でも、そんなこと許されるような家じゃなかったからさ。オフクロなんてギター持ってるヤツ見るたびに「不良だ」って言う始末だしよ。極端な人だから"禁じられた遊び"弾いてるヤツも「不良」なんだ。髪の毛がちょっとでも長いと、それも「不良」になっちゃう。だから、俺は高校三年間ずっと坊主頭だった。野球部でもないのに、坊主。  そんなわけでギターは駄目だろ? 仕方ねえから目立つためにモノマネなんかするわけさ。でも、モテなかったね。ま、そんなんでモテるわけもねえんだけど、まったくのからっきしだった。だから、俺はヤケになってモノマネしてたんだ。馬鹿なんだし、坊主だし、モテっこないから、その憂さ晴らしにやってたんだよ』
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