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 母さんは一九五二年の七月二十四日に新潟県で生まれた。  血のメーデー事件が起こり、GHQが廃止され、白井義男が日本人初のボクシング世界チャンピオンになった年だ。  六人きょうだいの下から二番目で、なおかつ次女だったことが母さんの人生に大きな意味を持つことになった。まあ、他人からすれば気にならないような物事も当事者にとっては重大であるといったことの一例だとは思うけど、母さんにとっては生き方そのものを決定づけられることが生まれたときから定められていたのだ。  男兄弟の名前はそれぞれ立派なものが用意されていた。素晴らしいとまではいかないまでも、その子供にどのように成長して欲しいかが読みとれる名前(仁一、恭二、正三)だ。長女も初めての娘ということで、それなりの名前(ヨシミ)があたえられた。  そして、母さんはその長女誕生から七年後に生まれた――それは、きっとうっかり生んでしまったという表現の方がより正しいのだろう。  母さんの両親はともにそのとき五十代に手が届きそうになっていたし、長男の結婚も決まっていた時期だったのだ。一年後には弟も生まれることになったのだけど、それはまるで魔が差したとばかりにポンポンとできた感じだった。
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