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 進学校といわれている高校に入った父さんはその中に埋没していった。まわりの学生は明らかに勉強のできそうな子供たちだったし、相対的に父さんはそこそこ勉強のできる子供になっていた。  もちろん、顔の歪んだ父さんはその中でも目立っていた。言うなれば父さんは《顔の歪んだ、わりと頭のいい子》だった。そのことで父さんはからかわれることもあったけれど、一度あんまりしつこく言いたてる同級生の顔を自分の歪み具合と同じになるほど殴ってからは、やんわりとしか()()されなくなった。まわりの人間はその事件以降、父さんの顔の歪み方が極限に達する前にその話題を引っこめるようになったのだ。  しかし、父さんは別に怖れられていたわけではなかった。  まったくその逆だった。教員のモノマネなんかをしてクラスの人気者になっていたのだ。特徴の切り取り方には少しだけ悪意が含まれていたけれど、それを過大に表現することで当の教員も苦笑いせずにいられないようなモノマネを父さんは披露することができた。  卒業前の謝恩会では、校長から購買部のおばちゃんに至るまで総勢十五人ほどのモノマネをやってのけ、すべての出し物が終わった後で訓示を宣べる校長の隣に並んでまたもや真似をするといった快挙をなした(これは出身高校の伝説として今も語り継がれているらしい)。
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