匂い

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と、わたしに車の鍵を渡してひとり店の裏手のほうへ煙草を吸いに行った。 「お待たせ」 と夫が乗り込んできたとき、湿って生臭い空気がともに入ってきた。 「うわー、湿気が。早くエアコンつけよう」 「おまえなあ。自分でやっておけばいいだろう、それくらい」 「わたし助手席座って20年だもーん」 夫は呆れた顔でわたしをチラリと見たがすぐにエンジンをかけ、エアコンを入れてくれた。 「これでカイテキ~」  エアコンから流れ出す冷たく爽やかな風を顔に受け、わたしはご機嫌だった。車はU沼を離れ、渋滞にも巻き込まれず順調に走っている。また雨がぽつぽつと降り始めた。  ところが――  U沼のほとりで嗅いだあの生臭い匂いがするのである。最初は気のせいだと思っていた。  しかし匂いは弱まるどころか、どんどん強くなっていく。まるでどろりとした腐った水のような匂い。もうダメ、くさい。我慢できない。わたしは助手席の窓を細めに開けた。雨が侵入してくる。 「何だよぉ。こっちにまで吹き込んでくるだろ」 夫の横顔があからさまに嫌そうだ。 「だって……この車さぁ、変な匂いしない? 水が腐ったみたいなそんな匂い」 そう言った途端、夫から表情が一瞬抜け落ちた。 「……俺、さっきからいい匂いがすると思ってたんだけど」 今度はわたしの肌が粟立つ番だった。 「どんな?」 「なんだろう。おしろいみたいな、うーん」     
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