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匂い
からりと晴れ上がったゴールデンウィークの或る日、わたしは夫とT県で行われる有名な陶器市へ繰り出した。
まだ午前中早いうちに到着したのに、市はすでに大変な賑わいだった。わたしたちは人波に揉まれながら有名無名の窯元や新人作家の出店をじっくりと見て回って、小鉢からラーメン丼まで、たくさん食器を買い込んだ。
「そろそろ帰ろうか。お前、買いすぎ」
夢中になって買い漁るわたしに夫がそう切り出した頃には、もうすっかり陽が傾いていた。
「そうだねー。ねえU沼でうなぎ食べて行かない? 今から帰るとU沼を通る頃、晩ご飯にちょうどいい時間になりそう」
わたしたちは会場の混雑のため昼食を食べそこねていた。そしてU沼沿いは鰻丼発祥の地として知られ、国道沿いには鰻屋が軒を並べているのである。人呼んで鰻街道。
「煙草吸えるところにしてね」
夫は愛煙家なのでそんなところを気にする。車の中での喫煙はわたしが盛大に咳き込んでしまうので遠慮してくれる。
「え。まあいいよ。ホントは嫌だけど」
そんな軽口を叩きながら、たくさん買いこんだ食器をトランクに積み帰路についた。
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