忘れ得ぬ笑顔

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 youtubeのおすすめにあった流行りのピン芸人さんの名前を見て、私はふと、小学生の頃、噂になっていた「ぶらりはん」のことを思い出しました。  小学校に入学してすぐ、近所の都市伝説的な噂話の中に「ぶらりはん」の話はありました。  といっても、それは恐怖をあおるようなものではなく、「林のなかから頬笑みかけるぶらりはんに出会うと、近々良いことが起きる」といった、「座敷わらし」的な幸運の妖怪とのことで、幼かった私は、会ってみたいな。でも妖怪だから本当に会ったら怖いかな…。と、想像を膨らませていました。  小学校3年生の夏。夏休みの最初の一週間で頑張って宿題を終えて、友達4人と昼間にさんざんプールで遊んだ帰り、日陰がある神社でお喋りをして、夕方になってそろそろ帰ろうかと、石段を下りていた途中、私は視線を感じ、そちらに顔を向けました。  木の陰におばさんがいるな、というのが第一印象でした。  おばさんの表情はにこにことほほ笑んでいて、その時は全然怖いとは思わず、ただの人にしか見えなかったので「ぶらりはん」の噂とも結びつかず、私はそのまま家に帰りました。  次の日の学校でその話をしたら、そのおばさん、高いところからぶら下がってなかった? と友達にきかれて、言われてみれば確かに高いところから見下ろす感じだったと思い、そうだよと答えると、「それ、きっとぶらりはんだよ!」と皆で盛り上がり、何か良いことがあるかもしれないと、わくわくしながら帰りました。  ただ帰宅して母親にそのことを話したところ、すっと青ざめた顔でおずおずとこうきかれました。 「その人、ひもみたいなもので、ぶら下がってなかった?」  よく思いだしてみると、確かに首に巻きついた紐でぶら下がっていた気がして、その時点で私はワクワクしていた気持ちが一転、全身が寒気立ちました。  認めるとその可能性が現実になってしまいそうで、私は母親に「そんな紐なかったよ」と言い、震えながら眠れない夜を過ごしました。  後に神社の林で、夫の借金苦で首つり自殺した女性がいたという話をきき、私はあまりの怖さにその記憶に蓋をして、忘れ去ることに決めたのでした。  あれが都市伝説「ぶらりはん」の正体だったかどうか定かではありませんが、とりあえず記憶を辿る限り、これといった良い事はなかったです。
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