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水の流れる音がする。心地よい草花の香りが鼻をくすぐり瞼があがらない。ここはどこ?…何でこんなところで寝ているんだっけ。うっすらと目を開くと太陽の光に照らされ透き通った木の葉っぱが揺れている。
「あ、そっか俺、家飛び出してきたんだっけ」
俺の親は俺が子供の頃から毎日朝早くから家を出て夜遅くに帰ってきてはお互い仕事のストレスかしょっちゅうけんかをしていた。そんな中で成長してきた俺は親と話すことも少なく家事すらも一人でやってきた。関わりの少ない分毎月そこそこのお金をもらい、勉強や習い事といったことには惜しみなくお金を費やしてくれた。そんなこともあって子供の頃から淡々と勉強をして、気付けば周りは本に囲まれていた。
中学に入り周りが少しずつ反抗期に入っていく中でも今までと全く変わらない生活を送っていた。けれども今年、中学3年の夏は違った。夏休みに入った初日、ふらっと外に出て…それでどうしたんだっけ…。気付くとこの場所にいた。
長く寝ていたせいか軽く目眩に襲われながら立ち上がり、服についた草を払い落とす。喉が渇いたのでとりあえず水の音のする方向に歩き出す。進むにつれ水の音は大きくなっていくが森の景色は殆ど変わらない。起伏もなければ土すら見えず緑色の草が辺り一面を覆っている。木の数はあまり多くないのに空を見上げると葉っぱが太陽に照らされ輝いている。美しい大自然に囲まれているおかげで真夏の日差しは心地の良い暖かさに変わり森の中を明るく照らしてくれている。
しばらく歩くといよいよ水の音がはっきりと聞こえるようになり、目の前に開けた場所が見えてくる。そこは葉に覆われておらず光が直接降り注いでいる。水がたまって泉となり光をはね返して白く輝いている。
泉の前に立つと泉に流れ込む小さな滝の中から白く細長い四肢が見え隠れしていた。目をこらすと長い黒髪の美しい少女が立っていた。
「可愛い」
思わず声が出てしまい、その声に気づいたかのように少女は体をこちらへ向けた。胸にかかるくらいまである長い黒髪が控えめな胸の膨らみを強調している。整った顔は幼さを残してはいるが見る者全てを美しいと思わせるであろうほどの美貌だ。思わず見とれてしまっているとふと目が合った。数秒の後、少女は両腕で胸を覆うと滝の奥の洞窟へと走り去っていった。
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