1人が本棚に入れています
本棚に追加
俺はマグカップを返すと、ひとまず情報を整理しようと使っていいと言われた洞窟に向かった。中はさっきのとこよりも少し狭かったが俺一人が生活するには十分な広さがあり同じように天井にはライトがついていて明るさも全く問題がなかった。
どうやら俺はこの森から出られず食べ物には困らないらしい。華音さんは一緒に暮らそうと言ってくれたが一生この森の中で暮らしていくことになるのだろうか?華音さんはとても可愛いのでそれは夢のようだがさすがに親が心配するだろうし夏休みが明けたら学校にも行かなきゃいけない。ひとまずは何とかしてこの森から出る方法を探ってみよう。
状況を把握して今後の方針が決まったところでどっと疲れが襲ってきて深い眠りへと落ちていった。
目が覚め、中央の洞窟に行くと華音さんは真ん中で木を燃やしその上に鍋をつるして加熱していた。洞窟の入り口から入ってくる光は殆どなくいつの間にか夜になり、きっと晩ご飯を作ってくれているのだろう。
「手伝いますよ」
「ありがとう、だけどもう出来たわ」
そう言うと豆のような物が浮いた味噌汁をお椀に盛ってくれた。頂きますと言い汁をすするとつい「おいしい!」と口に出 てしまった。お世辞でも何でもなく本当においしかった。香ばしい味噌の香りが口いっぱいに広まり中に入っている名前の知らないような木の実は不思議な味がした。華音さんもよかったと頷きながらおいしそうに食べていた。
晩ご飯を終え、片付けを終えると華音さんがお茶を汲んで持ってきてくれた。よく知っているような葉っぱから抽出した物でなくマグカップの中には見知らぬ木の実が入っていた。
「もし良かったら悠生君のことを教えてくれない?」
特に隠すこともないので家族のことやどんな環境で育ってきたかなど全てを話した。そしてこの森に迷い込んだ経緯も話した。
「そっか、私はね子供の頃から可愛い可愛い言われて育ってきたの。両親からも、先生、友達からも、周りの人全てに可愛いって言われてきたの。それに答えよう答えようってしてたらいつの間にか本当の自分を見失っちゃたの」
華音さんは自分とは逆なんだ。周りから全く相手にされなかった自分と違って周りに期待され、愛された。この話を聞いてどこか少し羨ましいと思ってしまった。自分もあんな風に周りから愛されていればとは考えずにはいられなかった。
最初のコメントを投稿しよう!