0年目

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「そろそろ寝ようか?」 火も消えかけてきたところで俺は一番右の、華音さんは一番左のどれぞれの部屋へと分かれていった。  こうして初日は終わりを迎えた。 2日目 目が覚めると真っ先に岩肌が目に入る。 「やっぱ夢じゃないのか」 一生この森で過ごすという事実が夢であったという希望は消えて無くなった。体を起こし顔を洗うために洞窟の外に出ると華音さんが同じように顔を洗っていた。 「おはようございます」 「おはよう」 滝の水は冷たく目を覚ますにはもってこいだった。 「朝飯にしましょうか」 そういうと華音さんは中央の洞窟の奥、俺たちが寝ているとこの真ん中の洞窟へと案内してくれた。  中に入った途端に香ばしい小麦の香りが漂ってきた。石窯があり火がくべられていた。 「今朝はクロワッサンよ」 「え、ここに小麦なんてあったんですか?」 「この洞窟の上は畑になってていろんな作物を栽培できるの。それに木の実だって物によっては粉にして使えるのよ」 この森すげぇ、と改めて驚いた。  華音さんが石窯の扉を開けると一気に香りが鼻の奥をつき、ぎゅるるるとお腹が鳴った。石窯から取り出された2つのクロワッサンがお皿の上に置かれ二人の前に並ぶ。マグカップに注がれたお茶が湯気を立てフルーティーな香りがする。 「「いただきます」」 出来たてのクロワッサンは温かく香ばしい小麦の香りが口いっぱいに広がった。 「さて今日は何をするんですか?というか普段何をして過ごしてるんですか?」 「うーん普段は農業したり木の実採ったり魚釣ったり…あとは…なんとなく過ごしてるかな」 からっとした笑顔で華音はそういった。 「悠生君は好きなことしてていいよ、お腹空いたら私のとこに来てね」 「うん、ありがとうございます。何かお手伝い出来ることあれば言ってください」  朝食を食べ終えた俺は朝食の時に聞いた洞窟の上の畑に行ってみることにした。  滝の落ちている崖を迂回するように上に行かれる坂があった。その坂を上がるとそこには農場があった。農場といっても大型重機があったりハウスがあったりするわけではないのだが、1人分の食材を確保するには十分すぎるほどのスペースがあった。 「楽しい!」 これまでの不安はどこかへと吹き飛び今までに経験したことがないほどの興奮を覚えた。ここで一生を過ごすのも悪くないかもしれない…そう思えてしまった。
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