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しかし、その考えもすぐに変わった。
畑の中心を流れ滝となって流れ落ちている川を上流へと歩くとそこには意外な光景が待っていた。
「街だ」
空を覆うように生えていた木がいつの間にか無くなり青空が広がっていて久々に浴びた直射日光がきつかったがそれよりも目の前の光景に驚きを隠せなかった。今俺がいる場所はそこそこ標高の高いとこのようで眼下には街が広がっていた。ビルがいくつも建っており、車も走っている気がする。とたんにこの森から出たいと思った。確かにここで生きていくことは可能だ。けれどもここには何もなさ過ぎる。それに華音さんだってここから出たいはずだ。そんな自分勝手な思考に埋め尽くされ、それからというもの俺はひたすらに森の出口を探した。
時々華音さんの手伝いをしつつも日中はずっと森の中を歩き回っていた。夜は華音さんと様々な話をしたがこの森から出ようとしていることはなんとなく黙っていた。
森の中は華音さんが言っていた通り進んでも進んでも景色は殆ど変わることがなく、洞窟に戻ろうとするとなぜかすぐに戻ることが出来た。
結局全く進展を見せずに15日が経過したある日、突如としてこの生活は終わりを迎えた。
いつもならどれだけ歩いても永遠と続く森がこの日は違った。30分ほど歩くとそこには紫色のバリアのような壁が出来ていた。そして、興味本位でその壁に触れると腕が通り抜けた。もしやと思いそのまま全身を壁の中に投じたー
目を覚ますと真っ先に目に入ったのは、ベージュ色の天井だった。背中に当たる感触は柔らかく心地よかった。
「ここは…俺の家?俺は夏休みの初日に家出して、気付いたら見知らぬ森にいて…そこで何したんだっけ?」
何も思い出せない。ベットから降りて机の上のデジタル時計をみると8月16日とあった。確か夏休みが始まったのが8月1日だからおよそ15日間俺は何をしていたんだっけ?
自室のある二階から一階へ降りるとそこには母の姿があった。
「悠生!目を覚ましたのね、良かった」
「母さん、俺は一体?」
「何を言ってるの?あなたは夏休みの初日に『旅に行ってきます』ってメモを残していなくなっちゃたのよ。お父さんは心配するなといっていたけど心配で心配で。そしたら昨日の昼頃にあなた玄関前で倒れてたのよ」
どうやら俺は15日間の記憶を失ったらしい。
そしていつの間にか夏は過ぎ去っていった
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