ACT22.許されぬ想い

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 満員の地下鉄に揺られ、最寄り駅の根津駅で降りた。駅を背に北へ徒歩十分ほどの距離にあるマンションが、早紀と忍の自宅だ。  一階部分にはアイボリーの岩のようなタイル、二階以上はグレーのタイル地に今時の洒落た内装をしている。十階建てのそこそこの大きさのマンションだ。 「この六〇二号室よ」  大人が六人乗れば定員の小さなエレベーターに二人で乗り込み、自宅まで案内した。きちんと整頓された室内に足を踏み入れた太陽は、早紀の家らしいな、と思った。所々に旦那の影が見えるのが、彼の胸中をモヤモヤさせた。  早紀が独身だったら、と何度考えただろう。  受け入れてくれるなら、精一杯の愛をその身体中に刻み付けて一生大切にしたいと、何度願っただろう。  好きだと、伝えたい。  許されぬこの想いを、お前に――  
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