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「こっち、座って。あ、その前に手を洗うでしょ? 洗面台はここよ。コート預かるね」
早紀の声で我に返った太陽は、ああ、と自分のコートを預けて案内された洗面所で手を洗った。
「そこに座って待ってて。すぐステーキ焼くから。他にも準備するね」
言われた通り、太陽は一枚板のダイニングテーブルと揃いの木製椅子に腰を下ろして、エプロンを着けた早紀の後姿を見つめた。
カウンターキッチン内であれこれ準備をする早紀に、太陽が熱い視線を向けている。
何故、これほどまでに彼女の事が好きなのだろう。しかも既に他人の女と解っているのに、それでも諦められず想い続けるなんて。
このままだと、自分と早紀が夫婦になったように錯覚してしまう。
勢いで言ってしまった夕飯を馳走になるというこの行為は、実は太陽も後悔していた。
旦那との間が揺れている今、手を伸ばせば早紀は手に入るかもしれないという、淡い期待が膨らんでしまう。
自分の気持ちが暴走しないように、太陽は気を引き締めた。しかし、自分の為に夕飯を拵(こしら)えてくれる早紀の後姿を見ていると、そのまま抱きしめて奪ってしまいたくなるのも事実だった。
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