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グリルがチーンと鳴り、ステーキの焼き上がりを知らせたが、早紀はそれに気が付かず熱っぽい視線を向け、黙ってぼんやりと太陽を見つめた。
「なあ。チーンて鳴ったから、出来上がったんじゃないか? 腹減ってるから、早くステーキ食べさせてくれよ」
太陽の言葉で我に返った早紀は、ぼんやりしてごめんね、すぐ用意するから、と慌ててごまかした。
一体何を考えているの――太陽に見えない所で自分の頬をピシャリと叩いて叱咤した。
忍を待つと決めた矢先に太陽に心を動かされ、不安定になってどうするのだ、と。
独身の同僚の男に、既婚者の自分が心を傾けてどうするのだ。一線を越えるつもりでいるのか。
間違いなどを起こして、忍を裏切ったり出来ない。もしそんな事をしてしまったら、自分で自分を赦せなくなる。
太陽と関わるのは、もうこれきりにしよう。二人きりで会ったりするのは、よそうと思った。
でないと、おかしくなる。忍を、待てなくなる。
このままだと、確実に太陽に惹かれてしまう。
そんな想いを持つことは、許されない。
大事な、忍がいるのに。
淋しさを紛らわす為の、ひと時の感情に惑わされてはいけない。
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