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「荒れてるねぇ」
「うるさい」
奈々が投げ捨てたヘッドフォンをベッドの上から拾い上げ、声を掛けて来た男を無視して、奈々はベッド傍のサイドテーブルからアーク・ロイヤルという銘柄の煙草が入った、専用の名刺入れのような洒落たピンクのケースからそれを取り出し、口に咥えて火をつけた。
途端に甘いヴァニラの香りが漂い出す。ベッドに腰かけて息を吸い込み、無表情で煙を吐き出した。
「あ、お願いがあるの。明日までに買っておいて。エルメスのナイルの庭。オード・トワレよ。類似の種類がいっぱいあるから、絶対に間違えないでね。百貨店とかに売っているわ。入手は難しくないから、出来るでしょ」
「了解」
「上手く行ったら、もう一回抱かせてあげる」
「うーん・・・・」男は目を閉じて逡巡(しゅんじゅん)したが、すぐ目を開いて奈々の近くまで来て、彼女の顔を覗き込んだ。「いや、先払い。今、荒れて怖い顔してるから、もう一回オトコを潤い補給しないと。美人が台無し」
男の手が奈々の胸に伸びた。もう既に一度行為に及んだ後だから、今、奈々が着用しているのは、ピンクのフリルが付いた可愛らしいキャミソールと、揃いのショーツのみだ。部屋は暖房で温まっているし、運動したばかりだから、このような格好でも寒くは無かった。
奈々は胸を弄ろうとしていた男の手を叩き落とした。「ダメよ。もう終わり」
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