ACT03.悪い女

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 二十六歳の春、人生に初めての汚点が付いた。後にも先にも、自分から告白してきっぱり断られたのは、あの時が初めてだった。百戦錬磨の女が初めて敗北した瞬間だった。  地味男(じみお)と社内であだ名がついていた男が、急にモデルの様に格好良くなり、話題になった。言い寄る女を尽(ことごと)く振るので、自分が落としてやろうと思い、近づいた。自信はあった。断られるとは夢にも思わなかったが。  予想に反して、結果は惨敗だった。  それから暫くして、敗北の烙印を焼き付けた男が付き合い出したのは、想像に相反する女だった。同じ会社に勤める自分と真逆のタイプの女性で、奈々はますます憎しみを燃やした。  あんな大きな男のような女に、自分が敗北するなんて絶対に認めない。  誰にでも愛される女は、完璧でなければならない。たった一度の敗北も、赦されないのだ。 ――どんな手を使っても、奪って、壊してやるから。  それに今は特に燃える。忍が早紀のものであるから、余計に。  だから時間を掛けて作り上げた。疑われず忍に近づくことができる、彼の妻の『親友』という名のポジションを。  屈辱を晴らす為の、最高の、その瞬間のために。  
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