ACT04.ひねくれ者

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  「チェックできる原稿のデータあるなら、私に送ってくれる? 目を通すから」 「出来た分のデータは、制作部共有のお前のフォルダに入れてある。戻って確かめてくれ。とにかく量が多い。原稿がまだ終わらない」  流石太陽。言われなくてもこちらの希望する仕事が早い。わざわざ彼のデスクに寄る必要なんか無かった。  邪魔にならないようにそれじゃあ頑張ってと伝えて踵を返すと、なあ、と呼びかけられた。 「なに?」 「早紀。昨日、メイド着たのか」 「はっ!?」  予想もしていなかった台詞に、早紀は思わず大きな声を出した。「そんなの太陽にカンケ―無いでしょっ」 「早紀のメイド、旦那は何て?」  太陽が咥えていた煙草を灰皿に押し付け、早紀が渡した珈琲の缶のプルタブを開け、ゴクゴクと飲んで胃に流し込み、コレ、美味いな、と呟いた。寒い冬だが、暖房の効いた室内は温度が高い上、作業で疲れた頭をスッキリさせた方が良いと思い、珈琲は冷たいものを用意したのだ。  どうやら太陽は、珈琲の温度と味に満足して喜んでいるようだ。気に入らなかったら文句を言うから、言わないと逆に気に入って喜んでいる、という事が最近早紀は解ってきた。
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