ACT04.ひねくれ者

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 とりあえず校閲に取り掛かろうと思い、保存されたWhite1というファイルを開いた。ソフトが立ち上がり、彼等が作った原稿が画面いっぱいに映し出された。 ――ワタシ、キレイ。  大手化粧品会社の社長が大口で契約してくれた、化粧品の広告だ。先日、奈々が契約を決めて来たものだ。  美肌化粧水の広告は、見出しに『ワタシ、キレイ。』とシンプルなキャッチフレーズに、目を閉じた美しい女性の素肌に潤いをもたらしているデザインで、早紀は素直に綺麗だと思った。  これは、太陽が作ったのだろう。あの性悪男から、どうやったらこの様な美しいデザインが出来上がるのかが不思議で仕方ない。口は悪いが、デザインセンスは社内一の男だ。太陽のデザインはクライアントも殆どが無修正で満足する出来のものが多く、目を見張るものがある。  正直これだけのデザインが出来るのなら、この様な小さな出版会社に勤めず、もっと大きなデザイン会社に行くか、独立でもすればいいのに、とさえ思う。この小さな会社では、彼の才能は勿体ないと常々早紀は思っている。太陽とチームを組んで、尚その思いが強くなった。  しかし、会社を選ぶのは彼だ。難しい性格だから、大きなデザイン会社だと折り合いがつかず喧嘩して会社を辞めそうだし、独立したらしたで、きちんとマネージメントする人間が居ないと、仕事に困りそうだ。彼の性格では自分で営業なんてとても出来ないだろうし、そんな彼を支えようとする奇特な人間が、難アリの彼の元で働くとはとても思えない。  だから彼はある程度自由が利くこの会社に、腰を据えているのかも知れない。
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