ACT01.幸せなセックス

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 こうなると、早紀にも声が掛かるだろう。デザイン部が原稿を仕上げた後は、のんびりと飲みに行く暇はなさそうだ。  しかし今の段階でまだ何も聞かされていないから、知らないフリをしておこう。同じ制作部ではあるが、早紀が行っているのは主に校閲――文章や原稿に誤りがないかチェックし、訂正したり校正したりするのが主な仕事だ。  制作はその名の通り、原稿を作成する仕事だ。広告の制作となれば、文章を起こす必要が殆ど無い。従って今の所早紀にはまだ、残業等の通達は無い。  制作と校閲では所属部署は同じでも仕事内容が異なるから、校閲にお呼びがかからない場合もある。  ただ、彼らの勤める大同出版社は規模が小さい為、どうにもならない時は、所属部署関係なく手伝いをする事がある。明日はデザイン部が必死に原稿を仕上げるだろうから、明後日以降にその原稿が自分の下へ回ってくるだろう。嫌な事を聞いてしまった。捕まる前に早々に退社しよう。逃げるが勝ちだ。 「そっかぁ。おひとり様って大変ねー」頬杖をついていた早紀が苦笑した。 「まあ、俺達には関係無い話だよ」  でも、早くおふたり様にもピリオド打ちたい――そう言いかけて、慌てて口をつぐんだ。  子供に関しては授かりものだから、焦りは禁物だと忍は言ってくれた。こんなに優しくて自分だけを愛してくれる世界一素敵な旦那に、余計な心配や負担を掛けたくない。  悩み事は外へ持ち出し。特に女子会で発散するのだ。忍には言わずに。
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