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谷村葵が、向かい合わせに座っている大人しい忍に色々話しかけてくれた。こういう所も早紀に似ている。周りの空気に合わせて、さりげなく気を使ってくれるのだ。お陰で忍は早紀を思い出し、ますます早く家に帰りたくなった。
「田浦さん、ビール空いていますけど、何か飲まれますか?」
「あ、ああ、じゃあもらおうかな」
葵が自分のカクテルと、忍のおかわりのビールを注文してくれた。
「田浦さん、ご趣味は何ですか?」
趣味は早紀苛めとは言えないので、読書かな、と当たり障りない事を伝えた。
出版社の編集部に勤めているくらいだから、忍は幼い頃から読書が好きだった。本を読んでいる間は、自分がどんなヒーローにもなれるし、様々な物語に浸れるからだ。
残念な事に自分で作品を生み出す才能は無かったが、それを生み出す作家の手伝いができる編集の仕事に、忍は誇りを持っている。
会話が続かなくなっては困るので、折り返し葵の趣味について聞いてみた。何故こんな場所に座って、更に無関係な人間に趣味は何か、等と質問をしているのだろう。時間の無駄にしか思えないが、守の為に二時間ほど辛抱しなくてはならない。自分はこの場を盛り上げる為の、数合わせ的存在なのだ。
既婚者という事を、何時暴露すればよいのだろうか。最初から言ってもいいのか、それともわざわざ言って水を差すような事をしない方がいいのか――合コンに殆ど参加した事がない忍は、葵と話しながら大いに悩んだ。
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