人の問ふまで

4/10
前へ
/15ページ
次へ
いつもの時間ならもう誰か彼かが来ていて、声と音とが響いている。 だけど今は二人、しんと寂しげに静まり返った体育館に立つ。 私の知らない体育館に居心地が悪い。 掴まれた腕は漸く解放されて、私は胸元でその圧迫感を元に戻そうとそっと撫でた。 「あの、何?どうかした?」 「お前、なんか最近変だぞ。どうした?」 「え?」 「なんか心ここに在らずって感じの時が多い。何か悩みでもあるのか?」 『何か悩みでもあるのか?』 一年前のあの日と重なる。 あの時も今も、変わらぬ恋の悩み。 「ううん。別に悩んでない。大丈夫」 顔は笑いながらも、心がチリチリと痛みを伝える。 「大した事じゃ無いから。用事それだけならもう、私帰るね」 じゃあね、と彼の横をすれ違おうとして再び腕を掴まれた。 「おい待てって。他の奴らにはそれでもいいけど、俺にまで隠すな。最近溜め息ばっかだぞ。何があった?これでも亜希の彼氏なんだからな。相談にのってやるから何悩んでんのか白状しろ」 ーー亜希の彼氏ーー 少しはそんな風に思ってくれていたのか。 小さな笑みが漏れた。 もう十分。 それだけで、ちゃんと報われた。 だから……昨日の星達、勇気を頂戴。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加