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「突っ立っててあげるから、私を殺してみろって言ってるのよ。牛男」
ミノタウロスの巨体が怒りで震える。
大気を揺るがすほどの咆哮が、渓谷に轟く。
「調子に乗るなよ、人間が! こいつを殺せっ!」
魔物の群れが、一斉に雄たけびを上げる。
そして、怒り狂う数百体の魔物がエリオを取り囲み、襲い掛かった。
斧。剣。鉄槌。牙。爪。拳。あらゆる攻撃が、エリオの小さな体に降り注ぎ、雄叫びと、鈍い打撃音とが鳴り響く。
しかし――
「な、なんなんだ……こいつは……」
「気は済んだかしら?」
エリオは――無傷だった。
戦意を失い、魔物たちの手から武器が零れ落ちる。彼らには何が起きているのかが理解できず、無傷の少女を前にただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
そんな魔物の群れに対し、ゆらりと体を揺らし、エリオは何処ともなく視線を向けた。
「……ねえ、私が恐い?」
言って、笑みを浮かべる。
「それが――恐怖よ」
魔物たちは戦慄した。
人間の――しかも、年端もいかない少女に恐怖心を覚えるなど、生まれて初めてのことだった。それほどに、彼女は異常であった。
ひとり、またひとりと無意識に気圧され、後退りする。彼らの生物としての本能が、危険だと叫び散らす。
「ば、化け物……」
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