第一章 あやめの嫁入り

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第一章 あやめの嫁入り

第一話 御稲荷あやめ   近頃、学校でとある噂が広まっている。  それは、『狐のコスプレをした美少女が枕元に立つ』というものだった。聞けば、その少女は名前を尋ね、そのままどこかに消えてしまうのだという。  そんな胡散臭い話、あるわけないじゃないか。  話を聞いたとき、僕は鼻で笑った。だが、数日が経ち、そんな会話のことなど忘れかけていた五月のある日の朝。事件は起こった。 「へ……?」  目を覚ますなり、僕は阿呆みたいな声を響かせた。原因は、視線の先。部屋の窓の縁にちょこんとしゃがみ込む、異質で――あまりに異様な存在。狐耳と尻尾をつけた、可愛らしい少女の姿がそこにあった。  とりあえず、お約束のごとく頬を思いきり抓ってみる。しかし―― 「夢……じゃ、ない?」  少女は、変わらずそこにあり続けた。  朝日に反射してキラキラと輝く、腰辺りまで伸びた長い白銀の髪。見ているだけで吸い込まれそうになる、透き通った藍色の瞳。目鼻の整った顔立ちは、幼くも、とても可愛らしい。小柄なその身に纏った簡素な白いワンピースがとてもよく似合っていて、幼い容姿から受ける純粋無垢、清浄潔白といった彼女のイメージを、より強く印象付ける。     
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