第一章 あやめの嫁入り

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第二話  桃仙郷  とりあえず、僕はあやめを一階のリビングへと案内した。  朝ご飯を食べながら話をしようと思ったからだ。 「ここ座って」 「……うん」  椅子を引くと、あやめは行儀よくちょこんとそこに腰かけた。僕は台所へ行き、冷蔵庫から先日の残り物を出してテーブルに並べると、テーブルを挟んで向かい合うように椅子に座った。 「さて、食べようか。いただきますっと」  箸を手に取り、から揚げに手を伸ばしたところで、あやめの様子に気がついた。戸惑っているのか、箸も手にしないままあやめはじっと料理を見つめていた。 「食べないの?」 「見たことない料理ばっかり……」  どうやら妖怪の食文化と人間の食文化は随分違うらしい。 「食べてみてよ。夕飯の残り物だけど、そこそこおいしいと思うよ」  僕は小さめのから揚げを箸で刺し、あやめの口元に運んでみた。  おずおずとした様子のあやめだったが、から揚げをかじった途端、目がコロッと丸くなった。 「どうよ」 「お……おいひい」  あやめは目を輝かせながらもぐもぐと咀嚼し、そのままから揚げを飲み込んだ。 「これ……ゆずきが作ったの?」 「そうだよ。揚げ物は得意なんだ」     
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