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「ああ、そういえば手紙にはゆずきとしか書かれてなかったもんな。写真もないんじゃ苦労しただろう。よく僕にたどり着けたな」
「うん。調べているうちに、昔わたしが来たのはこのあたりだってやっとわかったんだ。それからは、こっそり抜け出しては、歳の近そうな男の人を訪ねて……回ったの」
なるほど。それで、いろんな人の家を渡り歩いていたのか。この周辺地域で歳の近い男子。そりゃ、うちの学校で噂にもなるはずだ。
「抜け出してって、あやめはどこに住んでいたんだ?」
「……桃仙郷」
「とうせんきょう?」
「そう。こことは……少しだけズレた世界」
妖怪の世界――的な感じか。予想はしていたけど、やっぱりそういうのってあるんだな。
「桃仙郷ねえ。当然、お前のお父さんもそこにいるんだよな?」
「うん。だから、もう……桃仙郷には帰れない。何度でも好きになればいいって言ったけど……できることなら、やっぱりゆずきのこと忘れたくないから」
確かにそうだな。忘れなくていいにこしたことはない。
けれど、この状況は少しマズイ気がした。
「でもさ、それ平気なのか? いずれは、あやめを連れ戻しにくるんじゃないか?」
「平気。お父さんは桃仙郷から出られないから……」
「そ、そうなのか?」
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