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「うん。お父さん、力が強すぎるから、こっちの世界に影響出ちゃうって言ってた。だから……たぶん来ない」
「ふうん。そうか」
そうなると、やっぱりこの方法が一番いいか。
僕は考えていたひとつの案を提案することにした。
「あのさ、あやめ。ここで一緒に暮らさないか?」
「……えっ!?」
「桃仙郷に帰れないのなら、こっちの世界に住む場所が必要だろ」
「そうだけど……。でも……いいの?」
あやめが申し訳なさそうな顔をする。
気を使わないで良いように、僕は満面の笑みを浮かべて頷いた。
「ああ。優しくするって約束しただろ」
「……ありがとう、ゆずき」
そう言ったあやめの表情はとても嬉しそうで、かわいらしく見えた。
思わず、僕の胸が小さく跳ねるほどに――
「い、いや、こちらこそありがとう。おかげで聞きたいことは大体聞けたよ。中断して悪かったね。さあ食べよう」
慌てて話題を逸らし、ご飯を口の中にかき込む。喉に詰まりかけて麦茶を一気飲みしたところで、あることに気がついた。あやめが食べずにじっと箸を見つめていたのである。
「もしかして、桃仙郷には箸とか無かった?」
「これ、はしっていうの?」
やっぱりか。
予想通り、あやめは箸の存在を知らなかった。
「箸は慣れが必要だからな……。ちょっと待ってろ。何か別のを用意するから」
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